Skild AI、脚を失っても歩くロボット開発 汎用AIで損傷に適応

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米国のAIスタートアップSkild AIが、脚を切断されるなど極端な物理的損傷を受けても動作し続けるロボットを制御する、汎用AIアルゴリズム「Skild Brain」を開発しました。この技術は、単一のAIが多様なロボットを操作し、未知の身体形状や損傷に即座に適応する画期的なものです。従来のデータ収集の課題を克服し、ロボット知能の飛躍的な進歩を目指します。

この技術の核心は「omni-bodied brain(万能ボディの脳)」というコンセプトです。共同創業者兼CEOのディーパック・パサック氏が提唱するこの考え方は、「あらゆるロボット、あらゆるタスクを単一の脳でこなす」というもの。特定のハードウェアやタスクに特化せず、極めて高い汎用性を持つAIモデルの構築が目的です。

従来のロボットAI開発では、シミュレーションや遠隔操作を通じて学習させていましたが、十分な量の多様なデータを集めることが大きな課題でした。Skild AIのアプローチは、多種多様な物理ロボットを単一のアルゴリズムで学習させることでこの問題を解決。これにより、AIは未知の状況にも対応できる、より一般的な能力を獲得します。

その適応能力は驚異的です。実験では、AIが学習データに含まれていないロボットの制御に成功。四足歩行ロボットを後ろ足だけで立たせると、まるで人間のように二足で歩き始めました。これは、AIが自身の身体状況をリアルタイムで把握し、最適な動作を自律的に判断していることを示唆しています。

さらに、脚を縛られたり、切断されたりといった極端な物理的変化にもAIは即座に適応しました。車輪を持つロボットのモーターを一部停止させても、残りの車輪でバランスを取りながら走行を継続。AIが持つ高い自己修正能力が実証された形です。この能力は、予測不可能な事態が起こりうる現場での活用に大きな可能性を秘めています。

この汎用技術は歩行ロボットに限りません。Skild AIは同様のアプローチをロボットアームの制御にも応用し、照明の急な変化といった環境変動にも対応できることを確認済みです。すでに一部の企業と協業しており、製造現場などでの実用化に向けた取り組みが始まっています。

市場からの評価も高く、同社は2024年に3億ドルを調達し、企業価値は15億ドルに達しました。トヨタ・リサーチ・インスティテュートなども汎用ロボットAIを開発していますが、多様なハードウェアへの対応力でSkild AIは際立っています。この技術は、ロボットの自律性を飛躍的に高める「物理的な超知能」の萌芽として期待されています。