AIは「低品質なゴミ」ではない:個人のシネマティックユニバース構築事例
AI時代の映像制作術
従来のスキルとの融合
ハリウッドからの独立
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AIが生成する映像は「低品質なゴミ(Slop)」ばかりという認識を覆す事例が登場しました。ジョシュ・ウォレス・ケリガン氏(Neural Viz)は、MidjourneyやRunwayなどの複数の生成AIツールを駆使し、複雑な設定を持つSFシネマティックユニバースを構築しています。彼はAIを単なるツールとして捉え、高品質な映像作品を個人で制作し、ハリウッド業界からも注目されています。
ケリガン氏の成功の鍵は、AIの限界を把握し、それを回避する戦略にあります。AIが苦手なアクションシーケンスを避け、あえて「トーキングヘッド」のドキュメンタリー形式を採用。また、人間の「不気味の谷」を避けるため、エイリアンキャラクターを主役に据えました。古いTVのような粗い画質にすることで、レンダリングの不完全さも隠しています。
AIが全てのプロセスを自動化するわけではありません。ケリガン氏は、まず従来のやり方で脚本を書き、ストーリーボードを作成します。さらに、彼は照明の均一性や視線の一貫性を保つなど、10年以上のキャリアで培った映像制作のノウハウを全て適用しています。AIを使いこなすには、高度な伝統的スキルが必要不可欠なのです。
特に重要なのが、Runwayのモーションキャプチャ機能の活用です。ケリガン氏は自身で全キャラクターのセリフを演じ、表情や動きをAIモデルにマッピングさせています。これにより、彼は監督としてだけでなく、ゴラムを演じたアンディ・サーキスのように、AIをマスクとして使いこなす俳優としても機能しています。
AIのバグや不具合さえも、作品の創造的なインスピレーションとしています。例えば、AIがキャラクターの肌の一貫性を保てなかった際、それを「モーフ抑制剤」を止められたことによるエイリアンの変態(メタモルフォーゼ)という設定として物語に取り込みました。機械のミスが、世界観の深みへと昇華されています。
この事例は、ハリウッドの伝統的な労働モデルに大きな変化をもたらしています。ケリガン氏のように、AIを活用することで、個人クリエイターはスタジオからの独立性を高め、自ら制作した知的財産を所有できます。AI時代において成功するのは、技術者ではなく、これらのツールを最大限に活用できる「アイデアを持つ人」と予測されています。