AI作曲Suno v5、技術は進化も『魂』なき響き
v5の技術的な飛躍
残された芸術的課題
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AI音楽生成ツールSunoが最新モデルv5を公開しました。前モデルから音質や楽曲構成の複雑さが飛躍的に向上するなど、技術的な進化は目覚ましいものがあります。しかし、その一方で、人間の感情の機微を表現するには至らず、「魂のない」音楽という課題も浮き彫りになっています。本記事では、Suno v5の技術的到達点と、芸術的表現における限界をレビューします。
v5の最も顕著な改善点は音質です。v4.5+では不明瞭になりがちだった楽器の音がクリアに分離され、ミックス全体の透明感が向上しました。また、楽曲構成も単調な繰り返しから脱却し、より複雑でダイナミックな展開を見せるようになりました。モデルが個々の音を立体的に認識し、忠実に再現する能力が向上した結果と言えるでしょう。
しかし、v5のボーカルは「完璧すぎる」がゆえに人間味に欠けるという皮肉な問題を抱えています。生成される歌声は常に音程が正確で、リバーブやハーモニーが過剰にかかっています。これは「エフェクトなしで」と指示しても無視される傾向にあり、AIの解釈が画一的であることを示唆しています。結果として、どの楽曲も似たような、感情の乗らない仕上がりになりがちです。
特定のジャンルや時代背景を正確に再現する能力にも課題が残ります。「90年代のローファイ・インディーロック」といったニッチな指示を与えても、出てくるのは現代的でクリーンなサウンドでした。AIは「ローファイ」や「音痴風」といった意図的な不完全さのニュアンスをまだ理解できず、プロンプトの表面的な特徴をなぞるに留まっています。
音楽が人の心を打つのは、完璧さだけではなく、声の震えや息遣いといった「不完全さ」にこそ感情が宿るからです。Suno v5は悲しい歌詞を認識できても、その背景にある感情そのものを経験していないため、表層的な模倣しかできません。技術的にどんなに精巧になっても、アーティストが持つ実体験に基づいた表現の深みには、まだ遠いのが現状です。
Suno v5は、AI音楽生成技術の目覚ましい進歩を示す一方、創造性の本質とは何かを問いかけます。現段階では、プロトタイピングやBGM制作など、特定の用途で強力なツールとなり得ますが、人間のアーティストが持つ独自の「魂」を代替するまでには至っていません。今後の進化が、この芸術的限界をどう乗り越えるか注目されます。