AIが交渉を円滑に、合意形成を最大6割短縮

スタートアップのComplexChaos社が、AIを用いてグループ内の対立を解消し、合意形成を促進するツールを開発しました。このツールは、国連の気候変動交渉に関する実証実験で、参加者の調整時間を最大60%削減するという成果を上げています。同社は今後、企業の複雑な戦略策定プロセスなど、ビジネス領域への展開も目指しており、AIによる協力関係の構築が注目されます。

同社が目指すのは「協業(Collaboration)」ではなく「協力(Cooperation)」の促進です。CEOのトミー・ローシュ氏は、人々がAIに平易な言葉で説明を求める様子から着想を得ました。AIを中立的なファシリテーターとして活用し、人間同士が互いの視点を理解し、共通の土台を見つける手助けをすることがこのツールの核心と言えるでしょう。

このツールは、複数の先進的なAI技術を組み合わせています。特に、Googleが開発したグループの合意形成を目的とするLLM『Habermas Machine』や、OpenAIのChatGPTを活用。これにより、議論を深めるための質問を自動生成したり、会話の目標を設定したり、長大な関連資料を瞬時に要約したりすることが可能になります。

その効果は、ドイツのボンで開催された国連の会議で実証されました。アフリカ9カ国の若手代表団が事前準備にこのツールを使用したところ、調整にかかる時間が最大60%短縮されたのです。さらに、参加者の91%が「ツールのおかげで、これまで見過ごしていた視点に気づけた」と回答し、議論の質の向上にも貢献したことが示されました。

ComplexChaos社はこの技術を、ビジネスの世界にも応用できると考えています。例えば、多くの企業で数ヶ月を要する年間戦略計画の策定プロセスです。部署やタイムゾーンをまたいで行われる複雑な交渉や調整をAIが支援することで、意思決定の迅速化と質の向上が期待できるのではないでしょうか。

交渉が中断する主な原因の一つに、各グループが新たな情報を持ち帰り、再検討する時間が必要になることが挙げられます。このツールは、その再調整のプロセスを大幅に短縮できる可能性があります。気候変動のような地球規模の課題から日常のビジネスまで、AIが複雑な意思決定の摩擦を減らすことで、私たちはより良い未来を築けるのかもしれません。