単一MOSFETが脳型ニューロンに、AIの省電力に道
偶然の発見
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IEEE Spectrumは2026年6月29日、研究者がありふれたMOSFET1個を脳のニューロンのように動作させることに成功したと報じました。きっかけは2024年、学生が実験中にトランジスタの基板端子をつなぎ忘れたという単純なミスでした。すると電圧を下げると自然に戻るヒステリシス特性を伴う急峻な電流増加が現れ、これが生物の神経細胞によく似た挙動だったのです。
なぜ普通のトランジスタが神経のように振る舞うのでしょうか。鍵は通常は接地され注目されない第4の基板端子にありました。端子が浮いていると、電子と原子の衝突で生じた正孔が基板に溜まって電圧が上がり、MOSFETの中に隠れた別のトランジスタが作動して電流が一気に跳ね上がります。この蓄積・発火・放出の周期が、神経細胞の積分発火動作とそっくりだと判明しました。
さらに研究チームは、同じMOSFETがシナプスとしても機能することを発見しました。特定の基板抵抗の条件で電荷がゲート絶縁膜に捕捉され、素子のコンダクタンスを安定的かつ任意に調整できたのです。ニューロンとシナプスを組み合わせたこの素子は、神経シナプス型RAM(NSRAM)と名付けられました。
この成果がAIにとって重要なのは省電力性です。データセンターのGPUは1台あたり最大1000ワットを消費し、脳に比べ約100万分の1の効率しかありません。従来の脳型チップはニューロン1個に数十から数百個のトランジスタを要しましたが、新手法ならわずか1〜2素子で同じ働きを実現できます。
実用面の強みも明確です。実験的なメムリスタなどと違い、この技術は既存のシリコン製造ラインとそのまま互換で、別ファウンドリのチップでも歩留まり100%とほぼゼロのばらつきを再現しました。20年来多くの企業が挑んできた課題を、最も安価で標準的なMOSFETで解決した形です。
今後はデバイスの計算モデル改良や回路・システム全体の検証、複数回の試作が必要で、道のりは平坦ではありません。まずはバッテリー駆動のエッジAI向けが有力ですが、規模を拡大できれば将来は最先端GPUと競い得る、AIの環境負荷を下げる選択肢になりそうです。