査読の無償労働は年1.5万年、AI時代に制度が限界
出典:Ars Technica
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米メディアのArs Technicaは8月10日、学術論文の査読制度が投稿の急増で限界に近づいていると報じました。データベースのScopusとWeb of Scienceに収録される論文数は年5.6%のペースで増え続け、世界の研究者が査読に充てる時間は年間で延べ1万5000年分に達します。有償換算すると米国分だけで15億ドル相当となり、匿名かつ無償の相互評価を続けられるのかが問われています。
制度の綻びは個々の研究者にも及んでいます。デモイン大学の医療経済学者ジェイソン・センプリーニ氏は、小学生へのHPVワクチン接種義務化が集団全体の子宮頸がん罹患率をあまり下げないという分析をまとめ、学術誌に投稿しました。ところが査読者は、ワクチン自体の有効性を疑う研究だと取り違えたといいます。
通常、論文は2〜3人の専門家が読み、1人が誤解しても他の査読者が補正します。しかしこの論文を読んだのは1人だけで、そのまま不採択となりました。センプリーニ氏は「そこには非常に大きな違いがある」と述べ、政策の効果検証とワクチンの有効性は別の論点だと強調しています。
背景にあるのは、査読を担う人手の不足です。査読は匿名のボランティアが無償で支えてきましたが、投稿が指数関数的に増える一方、研究者が自分の時間を無償で差し出す余裕は乏しくなっています。分野を問わず査読者は追いつかず、制度そのものが揺らぎ始めています。
記事はこの状況を踏まえ、査読という仕組みがAI時代を生き延びられるのかと問いかけています。研究の信頼性を支えてきた土台が緩めば、技術選定や投資判断で論文を参照する企業にも影響が及びます。査読者の負担をどう軽くし、検証の質をどう保つかは、学術界だけの問題ではありません。