研究者37人が論文に代わるAI向け形式を提案
ARAが変える研究記録
人間の役割はどうなる
詳細を読む
研究者ジアチェン・リウ氏ら37人が2026年5月、約24の主要大学とテック企業の連名で「The Last Human-Written Paper」と題した論文をarXivに公開しました。科学者は人間向けの論文執筆をやめ、AIエージェントが直接読み込める新形式へ移行すべきだという主張です。AIが補助ツールではなく自律的な研究参加者になった以上、研究基盤も最初からAI前提で設計すべきだと訴えます。
提案する新形式はAgent-Native Research Artifact(ARA)と呼ばれ、この論文自体もGitHub上でARA形式で公開されています。著者らは従来の科学論文に二つの欠陥があると指摘します。一つはストーリーテリング税で、論文にまとめる過程で研究情報の8割が失われ、失敗した試行や性能を左右する細かなチューニングの勘所が残らないという問題です。
もう一つはエンジニアリング税です。論文は研究過程の非可逆圧縮であり、言語が曖昧だったり実装や実験の詳細が欠けたりして再現できないとリウ氏は説明します。ARAにはこれを補う「Live Research Manager」が組み込まれ、研究の進行をAIが常時観測して自動的に記録し、必要なときは従来のPDF論文へ変換し直せる設計です。
では、AIが出した結果は誰が確かめるのでしょうか。人間の検証能力には限界があるため、リウ氏は形式的な検証システムで客観的に判定する道を選びます。確率に基づく言語モデルは幻覚を避けられないとして、ニューラルネットと記号論理を組み合わせるニューロシンボリック技術で、すべての主張を数式として証明可能にする構想を進めています。
リウ氏は「The End of Human-in-the-Loop」と題した記事も公開し、AIが人間から専門知識を吸い上げ切った時点で人間の入力が不要になる特異点が訪れると見ています。失敗の過程まで公開したくないという研究者心理については、AIの誤りを人間が指摘する形なら抵抗は小さいと説明します。若手が経験を積めなくなるという懸念にも、人はAIから学ぶことで速く成長するとして、育ち方が変わるだけだと答えました。
もっとも、研究現場の受け止めは割れています。AIを使った研究は個人のキャリアを押し上げる一方で、生まれる新しいアイデアやテーマの幅を狭めるという分析もあり、学術界の評価は定まっていません。350年続いた論文という形式が変わるかどうかは、AIをどこまで研究の主体と見なすかにかかっています。