AIが熱電発電素子の設計を1万倍高速化

AIツールTEGNetの成果

従来比1万倍の設計速度を実現
ニューラルネットで熱電物理を近似
数千の素子構成をミリ秒で評価
試作品が既存最高水準と同等性能

産業応用への展望

廃熱から約9%の変換効率を達成
ビスマステルル化物の代替も可能に
製造コスト低減で実用化に前進
初の産業競争力ある発電コストを見込む
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日本の物質・材料研究機構の森孝雄副拠点長らの研究チームが、熱電発電素子の設計を従来の1万倍の速度で行えるAIツール「TEGNet」を開発しました。この研究成果は2026年4月15日付のNature誌に掲載されています。熱電発電素子は温度差から直接電力を生み出す固体素子で、タービンなどの可動部品が不要ですが、電気を通しつつ熱を遮断する材料の探索に時間がかかることが普及の障壁となっていました。

TEGNetはニューラルネットワークを基盤とし、熱電材料の熱流や電気輸送を記述する複雑な物理方程式を近似的に学習します。従来は1つの構成を評価するのに数日から数週間かかっていた作業を、ミリ秒単位で実行できるようになりました。これにより数千もの素子設計を網羅的にスクリーニングし、見落とされがちな最適構成を発見することが可能です。

研究チームはTEGNetを用いて2種類の発電素子設計を最適化しました。セグメント型ユニカップルと、n型・p型半導体を組み合わせた構成です。AIが特定した設計に基づき放電プラズマ焼結法で試作した結果、いずれも産業廃熱の典型的な温度条件下で約9%の変換効率を達成しました。これは熱力学的な上限であるカルノー限界の範囲内で最高水準の性能です。

コスト面でも大きな進展が見込まれています。従来の熱電素子は希少なテルルを含むビスマステルル化物に依存し、結晶成長の精密制御が必要でしたが、TEGNetが発見した設計の一部はより簡易な製造手法で作製でき、ビスマステルル化物を使わない構成も含まれます。森氏は「熱電発電の歴史上初めて、産業競争力のある発電コストを予測できる」と述べており、工場や製油所などの産業廃熱回収への実用化に道を開く成果です。