AIで薬剤耐性菌に挑む、診断精度99%超の新手法

AI診断と創薬の進展

AI診断で精度99%超を達成
培養不要で迅速な耐性判定
NHSとDeepMindが耐性機構を48時間で解明
生成AIで自然界にない新規化合物を設計

経済モデルの課題

大手製薬が抗生物質開発から撤退
英国定額課金型の支払いモデルを試行
2050年までに耐性菌で4000万人死亡の予測
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薬剤耐性菌による感染症は年間100万人以上の死亡原因となり、さらに約500万人の死に関与する深刻な公共衛生上の危機です。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのアラ・ダルジ教授は、2026年4月のWIRED Healthカンファレンスで、AI診断がこの危機への転換点になると訴えました。従来の診断には細菌培養で2〜3日を要しますが、敗血症など一刻を争う感染症では、治療が1時間遅れるごとに死亡リスクが4〜9%上昇します。

ダルジ教授によれば、AIを活用した診断は追加の検査設備なしで99%超の精度を達成しています。これは特に、抗生物質耐性率が高い東南アジアや東地中海地域など、医療インフラが限られる地域で大きな効果が期待されます。WHOの推計では、これらの地域では報告された感染症の3分の1が耐性菌によるものでした。

英国の国民保健サービス(NHS)はGoogle DeepMindと共同でAIシステムを開発しています。デモンストレーションでは、研究者が10年かけて解明した耐性メカニズムをわずか48時間で特定しました。自動化された実験室と組み合わせることで、数百の並列実験を24時間体制で実行でき、深層学習モデルは数日で数十億の分子構造をスクリーニング可能です。生成AIは自然界に存在しない化合物の設計にも使われています。

しかし技術面の進歩だけでは解決しません。大手製薬企業は、新しい抗生物質を耐性防止のために使用制限する必要がある一方、利益は大量販売に依存するという矛盾から、抗生物質開発から撤退しています。英国は2024年に「Netflixモデル」と呼ばれる定額課金型の支払い制度を試験導入し、処方量ではなく固定年額を製薬企業に支払う仕組みを始めました。スウェーデンも同様の取り組みを進めています。

Lancet誌の2024年の報告書は、薬剤耐性感染症による死亡者数が2050年までに4000万人に達すると予測しています。ダルジ教授は「対応するツールはすでにある。問題は、私たちがこの事態を真剣に受け止める覚悟があるかどうかだ」と述べ、技術だけでなく社会全体の意思が問われていると強調しました。