ASI(政策・規制)に関するニュース一覧

がん治療にAGIは不要、既存AIこそ有望と専門家が主張

AGI待望論への批判

がんは単一疾患でなく個別化治療が必要
AGIASIへの過剰投資を問題視
生体データ収集への投資不足を指摘

既存AIの実用的成果

早期発見や臨床試験の効率化に貢献
デジタルツインで個別化医療を推進
創薬の毒性予測やバイオマーカー発見

3段階のロードマップ

腫瘍学で成果を上げるAIツールの拡充
有望な生物学研究への重点投資

Future of Life InstituteのEmilia Javorsky氏が、IEEE Spectrumのインタビューで「がんを治すために超知能AIは必要ない」と主張しました。同氏は医師・科学者・起業家としての経験をもとに、AGI(汎用人工知能)やASI(超知能)への巨額投資がもたらす期待と現実のギャップを指摘しています。

Javorsky氏が強調するのは、がんが単一の病気ではないという事実です。腫瘍ごとに異なる変異が存在し、同じ腫瘍内でも細胞ごとに異なる生物学的特性を持ちます。そのため「一つの万能な治療法で治す」という枠組み自体が誤りであり、医療の現実的な目標は高度に個別化された治療によってがんを慢性的に管理可能な状態にすることだと述べています。

一方で同氏は、現在すでに利用可能なAI技術に対しては楽観的です。AIによる早期がん検出、臨床試験の効率化、創薬における毒性予測、新規バイオマーカーの発見など、実際の臨床現場で成果を上げている分野は数多くあります。さらに、デジタルツイン技術を用いて患者個人の生体をシミュレーションし、最適な治療法を特定する研究にも注目しています。

問題の核心は資本配分にあるとJavorsky氏は論じます。現在はAIの知能・計算能力への投資に偏りすぎており、生体計測ツールの革新や大規模で高品質なデータセットの構築が後回しにされています。医療システムが「病気になってから初めて計測を始める」構造であること自体が、AIの可能性を制限しているのです。

同氏はエッセイの結論として3段階のロードマップを提示しました。第一に腫瘍学で実績のあるAIツールの拡充、第二に有望な生物学分野への投資強化、第三に医療の進歩を阻む制度的・構造的ボトルネックの解消です。「現実は実はかなり希望に満ちている」と同氏は述べ、未来の超知能に頼るのではなく、今ある技術を活かす道筋を示しました。

AI研究を自動化するASI-EVOLVEが人間設計を超越

フレームワークの仕組み

仮説生成から実験・分析まで自律ループ
認知ベースに人間の知見を蓄積
分析器が実験結果を因果的に要約
知見が次の探索を導く自己進化型

実証された性能向上

データ整備でMMLUスコア18点超向上
1773回探索で105の新アーキテクチャ発見
強化学習GRPO超えの新アルゴリズム設計

企業への影響

独自ドメイン知識の統合が可能
コード公開で即座に利用開始可能

SII-GAIRの研究チームが、AIの訓練データ・モデルアーキテクチャ・学習アルゴリズムの最適化を自動で行うフレームワーク「ASI-EVOLVE」を発表しました。従来、AI研究開発には仮説の立案から実験、分析まで膨大な人的工数が必要でしたが、本フレームワークはこの一連のサイクルを自律的に回し続けることで、人間が設計したベースラインを上回る成果を達成しています。

ASI-EVOLVEの中核は「認知ベース」と「分析器」の2つです。認知ベースには既存の学術知見やヒューリスティクスが格納され、探索の初期段階から有望な方向へ導きます。分析器は訓練ログやベンチマーク結果から因果関係を抽出し、次の仮説生成に活用できる知見へと蒸留します。さらに研究者エージェントエンジニアコンポーネント、データベースが連携し、知見が体系的に蓄積される設計です。

実験では3つの領域で顕著な成果が確認されました。データキュレーションでは、30億パラメータモデルのMMLUベンチマークスコアが18点以上向上しました。ニューラルアーキテクチャ設計では1773回の自律探索を通じ、人間設計のDeltaNetを超える105の新しい線形アテンション構造を生成しました。強化学習では、数学推論ベンチマークGRPOベースラインを上回る新しい最適化手法を発見しています。

企業にとっての意義は大きいといえます。多くの組織はAIモデルの最適化に必要な計算資源とエンジニアリング工数を確保できず、標準モデルをそのまま運用しています。ASI-EVOLVEは独自のドメイン知識を認知ベースに統合し、社内AIシステムの自律的な改善を可能にします。フレームワークはオープンソースとしてGitHubで公開されており、開発者はすぐに活用を始められます。

GoogleとIntel、AI基盤で多年提携を拡大

提携の中身

Xeon 6をGoogle採用
多年契約で関係強化
カスタムIPU共同開発継続
ASIC基盤IPUに集中

CPU争奪戦の背景

CPU不足が業界課題
GPU偏重からバランス型へ
Arm AGI CPU競争参入

GoogleIntelは4月9日、AIインフラ分野での多年にわたる提携を拡大すると発表しました。Google Cloudは引き続きIntel製Xeonプロセッサを採用し、最新のXeon 6をAI・クラウド推論用途に活用します。両社は2021年から続くカスタムIPUの共同開発も継続し、ASICベースの設計に注力する方針です。

Google Cloudは過去数十年にわたりIntel製Xeonプロセッサを使い続けてきました。今回新たに採用が明確化されたXeon 6は、生成AI時代のクラウド推論処理を支える基幹部品となります。長期にわたる信頼関係を軸に、両社は基盤構築のパートナーシップを一段と深めます。

提携のもう一つの柱が、カスタムIPUの共同開発です。IPUはCPUからネットワーク処理やデータ管理といった作業を引き受け、データセンター全体の効率を底上げします。2021年に始まったこの取り組みは、今後ASICベースの設計に焦点を絞って進められる予定です。

この拡大の背景には、業界全体を覆うCPU不足があります。モデルの開発や学習にGPUが使われる一方、完成したAIモデルの実行や推論、そしてインフラ全般の運用にはCPUが欠かせません。Intelのリップブー・タン最高経営責任者は「AIには加速器だけでなくバランスの取れたシステムが必要だ」と強調しています。

CPUへの回帰はGoogleIntelだけではありません。SoftBank傘下のArm Holdingsは先月、創業35年で初の自社設計チップとなるArm AGI CPUを発表しました。世界的なCPU不足を背景に、半導体各社の競争はAI基盤の中核部品へと広がっています。

Nvidia、汎用GPU時代の終焉を認め戦略的転換を宣言

GroqとのライセンスとAIスタック競争

NvidiaGroq200億ドルライセンス契約を締結
推論専用チップ市場での協調・競合の複雑化
AIスタック競争が2026年に表面化
GPU汎用モデルからASIC専用化へのシフト
Nvidiaが4正面(モデル/推論/ネットワーク/ソフト)で戦う
エンタープライズのAI基盤選択が複雑化

次世代AI計算基盤の方向性

汎用GPUの万能戦略が限界を迎える
推論・学習・エッジで最適なチップが異なる
Intelや新興勢力のASICが存在感を高める
ソフトウェアスタックの差別化が鍵に
CUDAエコシステムの優位性は維持されるか
データセンター設計が根本的に変わる転換期

NvidiaGroqと締結した約200億ドル規模の戦略的ライセンス契約は、AI半導体業界の地図を塗り替える動きとして注目される。従来の競合関係から協調・ライセンスモデルへの転換は、推論市場の急速な拡大に対応するための現実的判断と見られる。

2026年を境に、AI計算市場は4つの正面で競争が激化するとされる。モデル学習用のNVIDIA H-シリーズ、推論特化のGroqCerebrasネットワーク・インターコネクト、そしてソフトウェアオーケストレーションレイヤーが主な競争軸だ。

特に注目されるのはNvidiaが「汎用GPU時代の終焉」を事実上認めた点だ。これは同社がAI専用シリコンへの特化を認め、エコシステム全体でのポジション確保戦略に転換したことを意味する。

エンタープライズ側にとっては選択肢の増加が歓迎される一方、ベンダーロックリスクも高まる。CUDAに最適化された既存コードベースを保持する企業は、代替アーキテクチャへの移行コストが高く、Nvidiaエコシステムの維持を余儀なくされる面がある。

長期的にはAIのワークロード多様化が進むにつれ、学習・推論・エッジ・エンドポイントで最適なシリコンが異なるという「ベストオブブリード」アーキテクチャが普及すると予想される。Nvidiaの戦略的ライセンスはその先取りと言える。

AMD・スー CEOがAIチップ競争と中国輸出規制を語る

競争優位と市場観

AIチップ市場は「一強」ではなくCPU・GPUASICが共存する多様な生態系
NvidiaGoogleを尊重しつつ**「正しいワークロードに正しいチップ」**がAMDの差別化軸
Gemini 3の台頭やDeepSeekなど技術の**常時リープフロッグ**がAI業界の特徴
10年以上の高性能技術投資がAMD横断的な強みを下支え
AIバブル懸念は過大評価であり需要継続を確信
速度こそが競争力の本質——「最速」を目指すことが戦略の核心

対中輸出規制と米国AI政策

MI308チップ中国輸出ライセンスを取得済み、**15%税は引き続き適用**
輸出規制は「日常業務の一部」として受け入れ、国家安全保障を最優先と明言
米AI技術のエコシステムを世界に広げることが長期的な競争力につながるとの見解
Lutnick商務長官ら現政権との**対話の速さと開放性**を高く評価
国立研究所と産業界の連携強化(Genesis Mission)を積極支持
米国主導のAIスタックを世界標準にすることが輸出政策の本来の目的

AIの現状と将来展望

個人利用頻度が3カ月で**10倍**に増加——実用段階に入ったと実感
「まだ正確性が不十分」——精度向上が最大の課題と率直に指摘
1年後には現在の想像を超えるAI活用が日常化すると予測
推論(インファレンス)市場の急拡大が計算資源需要の新潮流に

WIREDが主催した「Big Interview」イベントで、AMDのCEOリサ・スー氏がシニアコレスポンデントのローレン・グード氏の取材に応じました。AIチップ業界の競争構造から米中輸出規制まで、幅広いテーマについて率直な見解を示しました。

スー氏はAIチップ市場について「一強」という概念を否定し、CPU・GPUASIC(カスタムチップ)が共存する多様な生態系が形成されると主張しました。Nvidiaやハイパースケーラー各社への敬意を示しつつ、AMDの差別化軸は「正しいワークロードに正しいチップを届ける」能力にあると語りました。

競合他社への直接的な言及を避けながらも、スー氏はAI業界の特性として技術が常時リープフロッグしている点を強調しました。DeepSeekの登場からGoogleGemini 3の台頭まで、わずか1年間で話題が目まぐるしく変化していることを例に挙げ、単一の勝者が生まれない構造を説明しました。

対中輸出規制については、AMD製MI308チップ中国向け輸出ライセンスをすでに取得しており、米政府への15%課税はライセンス出荷のたびに適用され続けると明言しました。2024年12月時点の報道で変更があったとされる規制についても、同税は変わらず適用されるとスー氏は確認しています。

スー氏は米国AI政策について、現政権の対応速度と産業界との対話の開放性を高く評価しました。Lutnick商務長官やDavid Sacks氏ら政府関係者との連携が深まっており、国立研究所と産業界を結ぶ「Genesis Mission」など、科学・研究分野へのAI活用加速を支持する姿勢を見せました。

AIの現状については、個人的な利用頻度がわずか3カ月で10倍に増えたことを挙げ、日常の情報収集や準備作業での実用性を実感していると述べました。一方で精度の不足を最大の不満点として率直に語り、技術的なポテンシャルと現実のギャップを認識していることを示しました。

将来展望については、1年後には現在の想像を超えるAI活用が日常になると断言しました。推論(インファレンス)市場の急拡大が計算資源需要の新たな潮流を生んでいるとも指摘しており、訓練だけでなくインファレンス向けチップへの注力がAMD戦略の重要な柱であることを示唆しました。

AIエージェント版Googleへ、Fetchが新基盤3種発表

エージェント経済圏のインフラ

個人AI調整基盤ASI:Oneを発表
企業認証ポータルFetch Business
200万超のエージェント登録Agentverse

自律的なタスク実行と信頼性

複数AI連携で複雑なタスクを完遂可能
知識グラフで個人の好みを学習・管理
企業ID認証なりすましエージェント防止
AIによる決済実行も視野に展開

Fetch AIが、AIエージェント同士が連携してタスクを実行するための統合プラットフォームを発表しました。元DeepMind初期投資家が率いる同社は、2025年11月19日、個人向け調整基盤「ASI:One」、企業向け認証「Fetch Business」、検索ディレクトリ「Agentverse」を公開し、AIエージェントが相互運用可能な「エージェントWeb」の構築を目指します。

中核となる「ASI:One」は、ユーザーの要望に応じて複数の専門エージェントを指揮するオーケストレーションツールです。従来のチャットAIが情報提示に留まるのに対し、本システムは旅行予約や購買といった複雑なワークフローを、ユーザーの好みや履歴を学習した知識グラフに基づいて自律的に完遂します。

エージェント普及の課題である「発見」と「信頼」を解決するため、企業認証とディレクトリ機能も提供します。企業は「@Nike」のような固有IDを取得して信頼性を証明でき、ユーザーは200万以上の登録エージェントから安全な接続先を検索可能です。これはWebにおけるドメイン登録やGoogle検索に相当するインフラです。

現在のAI市場は、単なる会話から行動主体への移行期にあります。しかし、多くのエージェントは互換性がなく孤立しています。Fetch AIは、プラットフォームに依存しない共通の通信・決済基盤を提供することで、異なる企業や技術で作られたAI同士が経済活動を行えるエコシステムの確立を狙っています。

ソフトバンク、54億ドルでABBロボティクス買収 Physical AIを新フロンティアに

Physical AIへの大型投資

買収額は約54億ドル(53.75億ドル)
買収対象はABBグループのロボティクス事業部門
孫正義CEO「次なるフロンティアはPhysical AI」
2026年中旬から下旬買収完了見込み

成長戦略「ASIと融合」を加速

AIチップ・DC・エネルギーと並ぶ注力分野
産業用ロボット分野での事業拡大を再加速
従業員約7,000人、幅広いロボット製品群を獲得
既存のロボティクス投資群との相乗効果を追求

ソフトバンクグループは10月8日、スイスの巨大企業ABBグループのロボティクス事業部門を約53.75億ドル(約8,000億円超)で買収すると発表しました。これは、孫正義CEOが掲げる次なる成長分野「Physical AI(フィジカルAI)」戦略を具現化する大型投資です。規制当局の承認を経て、2026年中旬から下旬に完了する見込みです。

今回の買収は、ソフトバンクが「情報革命」の次なるフェーズとしてAIに集中投資する姿勢を明確に示しています。孫CEOは、「Physical AI」とは人工超知能(ASI)とロボティクスを融合させることであり、人類の進化を推進する画期的な進化をもたらすと強調しています。過去の失敗例を超え、AIを物理世界に実装する試みを加速させます。

買収対象となるABBのロボティクス事業部門は、約7,000人の従業員を抱え、ピッキングや塗装、清掃など産業用途の幅広いロボット機器を提供しています。2024年の売上は23億ドルでしたが、前年比で減少傾向にありました。ソフトバンクは、この部門の販売を再活性化させ、成長軌道に乗せることを目指しています。

ソフトバンクは現在、ロボティクスを最重要視する四つの戦略分野の一つに位置づけています。残りの三分野は、AIチップ、AIデータセンターエネルギーです。この大型投資は、AIインフラ全体を支配し、ASIを実現するという孫氏の壮大なビジョン達成に向けた、重要な布石となります。

ソフトバンクはすでに、倉庫自動化のAutoStoreやスタートアップのSkild AI、Agile Robotsなど、様々なロボティクス関連企業に投資しています。今回のABB買収により、既存のポートフォリオとの相乗効果が期待されます。特に、高性能な産業用ロボット技術とAI知能を結びつけることで、競争優位性を確立する狙いです。

Google、思考するロボットAI発表 物理世界で複雑タスク遂行

Google DeepMindは2025年9月25日、ロボットが物理世界で複雑なタスクを自律的に解決するための新AIモデル群「Gemini Robotics 1.5」を発表しました。計画を立てる「思考」モデルと指示を実行する「行動」モデルが連携。Web検索で情報を収集し、多段階のタスクを遂行します。汎用ロボットの実現に向けた大きな一歩となり、一部モデルは開発者向けにAPIが公開されます。 今回の発表の核心は2つのモデルの連携です。「Gemini Robotics-ER 1.5」が脳のように高レベルな計画を担当。Google検索を使い情報を集め、物理環境を理解し行動計画を作成します。単一指示への反応を超え、真の課題解決能力を目指します。 計画モデル「ER 1.5」が立てた計画は、自然言語の指示として行動モデル「Gemini Robotics 1.5」に渡ります。行動モデルは視覚と言語を理解し、指示をロボットの動作に変換。例えば、地域のゴミ分別ルールを調べ、目の前の物を正しく仕分けるといった複雑なタスクを実行します。 新モデルの大きな特徴は、行動前に「思考」する点です。単に指示を動作に変換するだけでなく、内部で自然言語による推論を行います。タスクを小さなステップに分解し、複雑な要求を理解。この思考プロセスは言語で説明可能で、意思決定の透明性向上にも繋がります。 「Gemini Robotics 1.5」は、異なる形状のロボット間での学習転移能力も示しました。例えば、2本腕ロボットで学習したスキルが、人型ロボットでも特別な調整なしに機能します。これにより、新しいロボットへのスキル展開が加速し、知能化と汎用化が大きく進むと期待されます。 Google DeepMindは責任ある開発も重視しています。行動前に安全性を考慮する思考プロセスを組み込み、同社のAI原則に準拠。安全性評価ベンチマークASIMOV」を更新し、新モデルが高い安全性能を示すことを確認しました。物理世界でのAIエージェントの安全な展開を目指します。 思考モデル「Gemini Robotics-ER 1.5」は、Google AI StudioのGemini API経由で開発者向けに提供が開始されました。これにより、物理世界で機能するAIエージェントの構築が促進されます。同社はこれを、物理世界での汎用人工知能(AGI)実現に向けた重要な一歩と位置付けています。

LLMの情報漏洩対策、準同型暗号でデータを秘匿したまま処理

プライバシー技術専門企業のDuality社は、大規模言語モデル(LLM)への問い合わせを秘匿したまま処理するフレームワークを開発しました。データを暗号化したまま計算できる完全準同型暗号(FHE)という技術を活用し、ユーザーの質問とLLMの回答をすべて暗号化します。これにより、企業の機密情報や個人情報を含むやり取りでも、情報漏洩リスクを懸念することなくLLMの恩恵を受けられるようになります。 このフレームワークの核心は、FHEによるエンドツーエンドの機密性保護です。ユーザーが入力したプロンプトはまずFHEで暗号化され、LLMに送信されます。LLMはデータを復号することなく暗号化された状態で処理を行い、生成した回答も暗号化したままユーザーに返します。最終的な結果は、ユーザーの手元でのみ復号されるため、途中でデータが盗み見られる心配がありません。 Duality社が開発したプロトタイプは、現在GoogleのBERTモデルなど、比較的小規模なモデルに対応しています。FHEとLLMの互換性を確保するため、一部の複雑な数学関数を近似値に置き換えるなどの調整が施されています。しかし、この変更によってもモデルの再トレーニングは不要で、通常のLLMと同様に機能する点が特長です。 FHEは量子コンピュータにも耐えうる高い安全性を誇る一方、大きな課題も抱えています。それは計算速度の遅さです。暗号化によってデータサイズが膨張し、大量のメモリを消費します。また、暗号文のノイズを定期的に除去する「ブートストラッピング」という処理も計算負荷が高く、実用化のボトルネックとなってきました。 Duality社はこれらの課題に対し、アルゴリズムの改良で挑んでいます。特に機械学習に適した「CKKS」というFHE方式を改善し、効率的な計算を実現しました。同社はこの技術をオープンソースライブラリ「OpenFHE」で公開しており、コミュニティと連携して技術の発展を加速させています。 アルゴリズムの改良に加え、ハードウェアによる高速化も重要な鍵となります。GPUASIC(特定用途向け集積回路)といった専用ハードウェアを活用することで、FHEの処理速度を100倍から1000倍に向上させることが可能だとされています。Duality社もこの点を重視し、OpenFHEにハードウェアを切り替えられる設計を取り入れています。 FHEで保護されたLLMは、様々な分野で革新をもたらす可能性があります。例えば、医療分野では個人情報を秘匿したまま臨床結果を分析したり、金融機関では口座情報を明かすことなく不正検知を行ったりできます。機密データをクラウドで安全に扱う道も開かれ、AI活用の可能性が大きく広がるでしょう。