残る輸送層課題
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AIエージェント間通信の規格が乱立しています。AnthropicのMCP、IBM ResearchのACP、GoogleのA2A、独立団体のANPと、過去18カ月で4つの主要規格が公開されました。一見混沌としていますが、実際には各規格が通信スタックの異なる層を担い、競合ではなく補完し合う関係にあります。
用途を整理すると役割は明確です。MCPはモデルとツールサーバー間の呼び出しを定義し、公開サーバーは1万超、月間SDKダウンロードは1.6億回に達して事実上の標準となりました。A2Aはエージェント同士のタスク委譲を担い、ACPは軽量なメッセージ交換、ANPは分散IDを使った発見と身元証明を担当します。
しかし、これら全規格がHTTPを前提とする点に根本的な弱点があります。HTTPは到達可能なサーバーを想定しますが、ネットワーク機器の88%はNATの背後にあり、中継基盤なしには直接通信できません。中継は遅延・コスト・障害点を生み、エージェント同士が直接つながる仕組みは未解決のままです。
技術的な解決手段は既に存在します。NAT越えのUDPホールパンチング、認証局不要の暗号化、TCPの欠点を回避するQUICなど、WireGuardやWebRTCが使う要素技術が応用可能です。エージェント特有の課題は、ホスト名ではなく能力で相手を探す能力ベースのルーティングにあります。
輸送層の標準化は応用層に比べ18〜24カ月遅れていると筆者は指摘します。IETFやW3Cの標準化は2027〜2028年に形になる見通しで、それまでは実装の多様化が続くとみられます。経営層への示唆は明快で、MCPやA2Aの応用層は今すぐ採用しても低リスク、輸送層は早期実装を見極めつつ差し替え前提で扱うべきだという段階的採用です。最も有利になるのは、応用層と輸送層を明確に分離して設計したチームだといいます。